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山本敏晴先生:前 国境なき医師団理事 現 宇宙船地球号 事務局長 
「国際協力のプロフェッショナルとして働くこと」
『シエラレオーネ―5歳まで生きられない子どもたち』(アートン社、2003年) が、メデイアで話題になっている。著者は山本敏晴氏。世界中で活躍する国境なき医師団(以下、MSF)の医師であり、写真家としても活躍している。本書は、氏が自ら撮影した写真と平易な文章を通して、氏が考えている「国際協力」の方法と実際の活動が紹介されている。
 
山本敏晴:1965年生まれ。幼少の頃父と一緒に南アフリカ共和国を訪れ、そこでアパルトヘイトを目の当たりにする。その後、アジア・アフリカを中心に40ヶ国以上を旅し、7カ国もの言語をマスターした。医師免許取得、2001年にMSFからシエラレオネに派遣される。03年にはMSF日本の理事に就任、05年に退任後、現在は宇宙船地球号の事務局長として活躍している。その他の著書としては、『世界で一番いのちの短い国-シエラレオネの国境なき医師団』(白水社、2002年)がある。

<後編>
「国際協力」の仕事に従事することは、「すばらしいこと」なのだが、「お金にならない」「キャリアにならない」というイメージがあるのではないだろうか?しかし、実際は、「国際協力」の世界にも厳然たる「キャリア」があり、「エリートコース」が存在する。
今回は、山本敏晴先生に「国際協力のプロフェッショナルとして働くこと」についてお伺いしました。
●「国際協力」の仕事

Q MSFの活動については、ニュースで何度も見ていたのですが、日本にもその組織があるという当たり前のことが、なぜか意外に感じられました。「国際的」と言われて、よその国のことだと短絡的にイメージしてしまったようです。

A 欧米からは年間数千人が派遣されていますが、日本はまだ十数人ですからね。日本の医療レベルを考えれば、数百人の規模になっても良いと思うのですが。

Q いわゆる「国際協力」のプロジェクトには、どのような科目が必要とされるのですか?

A 例えば、ある村の診療医として派遣される場合、つまり医師がその村に一人しかいないような場合は、内科、小児科がベースになります。他にも産婦人科や外科などオールラウンドに診療する能力が必要になります。
また、発展途上国といわれている国の中でも、カンボジアやタイ、スリランカなどの医療レベルはある程度高く、医学生のレベルも医師のレベルも日本とそう変わらない。このような場合は、現地の医師を指導することが仕事になることもあります。たとえば、消化器外科の専門家などの専門分野のスペシャリストが派遣されるのです。
つまり、現地の状況に合ったプロジェクトを組み、それに見合った専門スキルを持つ人材が派遣されるわけです。

Q 先生の専門は内科小児科ですよね?

A そうですね。国際協力の現場では、「母子保健」というのですが、産婦人科と小児科の需要が非常に高い。そのため、国際協力においては、私は小児科の診療をすることが圧倒的に多い。
Q 国際協力の団体はいくつかありますが、MSFの最大の特徴とは何でしょうか?

A 戦争をしている最中、もしくは、地震が起こった直後の二週間くらいなど、無法地帯になってしまっている状況での「緊急援助」ができるところですね。その中でも、「緊急医療援助」をするスペシャリストの集団が、「国境なき医師団」です。これは、非常に訓練されているプロフェッショナルな集団だからできることなのです。国際的にこのような「緊急医療援助」ができる団体は、数えるほどしかありません。
また、MSFは、地震等が起こった後数十時間以内に現地へ行くというところが、特徴になります
Q しかし、危機的な状況の場所へ、言わば手弁当で行くというのは、伊達や酔狂でできることではありません。また本人が行きたがっても、家族が止めるのでは。

A 私も、母に会うたびに説教されています(笑)。
ですが、派遣される人は手弁当で行っているわけではありません。現地での食事や住居は組織から支給されますし、往復の航空機代金も支払ってもらえます。
それから、日本国内の口座にも、月額約7万円ほどが振り込まれます。これで、日本での家賃をまかなうわけです。経済的には、私が研修医をやっていた時より少しはましです(笑)。最初の2~3回は、まあ下っ端ですが、経験を積んで上の立場になれば、待遇もかなり上がります。
●国際協力の「エリートコース」

Q 「キャリア」という観点で、国際協力にはどのように携わることができるのですか?

A 「あくまでボランティアに徹する道」と、「国際協力のエリート」になる道があります。

Q 国際協力の世界にもエリートコースがあるのですね。

A そうですね。たとえば、MSFや国際赤十字で何回か派遣経験をした後、ハーバート大学かジョンズ・ホプキンス大学で国際保健医療学の博士号を取得すれば、WHOなどの国連の組織に就職できる可能性があります。そうなると、非常に高い収入も得られ、かつマラリアなどの公衆衛生の問題から難民問題まで世界規模の仕事ができます。

Q ボランティアの現場経験はキャリアになるのですか?

A なります。特に、欧米では高く評価されています。ずっと役所に勤めている(机上の空論しか知らない)人たちよりも、現場を知るNGOなどの経験を持つ人のほうが、国連や各国の国際援助組織で人材として重宝されるようになってきました。
 国連等で働くという「エリートコース」に進むために、MSFなどのNGOで現場経験をつむというのも1つの選択肢だと思います。
Q 実際にMSFに入るためには、医師としてどのような能力が必要なのですか?

A 第一に、当然のことですが、医師免許を持っていること。
第二に、医師として5年間以上の実務経験が必要であること。
第三には、公衆衛生学または熱帯医学の知識が必要です。それらの知識を身につけるには、大学で講習を受ける必要があります。日本では長崎大学で3ヶ月間の短期コースを受けることができます。また、アメリカやイギリスなどの多くの大学で、熱帯医学等の短期コースを受けることができます。
 それから、海外経験があるということも必須要件です。仕事、留学でも何でも結構なのですが、日本を離れて暮らした経験があるかということが問われます。つまり、現地への適応能力があるかということを、そのような経験の有無で判断するわけです。
 最後に、フランス語か英語がビジネスレベルで喋れるということが必須能力になります。同僚と円滑にコミュニケーションできることが必要になるからです。

Q 国際協力に携わってきて、良かったこととはどのようなことですか?

A 大きいことと小さいことがあります。
まず、大きなことでは、私の考えてきた「本当に意味のある国際協力」(前編参照)を実践し、内容的にも数字的にもある程度成功をおさめられたことです。
 小さいことでは、現地文化と身近に接することができるということです。言葉が話せるようになると、食事に招待されたりもしますから。
Q 『シエラレオネ 5歳まで生きられない子どもたち』には数多くの写真が掲載されています。これは滞在期間中に撮っているのですか?

A いいえ。働いている期間は、忙しくて全く写真を撮る時間がありません。私の後任の医師が来て引継ぎが終わった後、ある程度暇になりますので、その期間に集中して撮ったものです。

Q これからキャリアとして国際協力を考えている医師の方々にメッセージがあればお願いします。

A  国際協力やボランティアというと、単なるきれいごとでお金にならない世界だと思っている人が多いのですが、実は、プロフェッショナルの世界なんです。
学問的には、熱帯医学や国際保健医療学というような専門性があります。経験を積めば、国連やJICA等のポストを得られる機会があります。そうなると、年収も日本の勤務医より多いくらいです。また、世界規模の難民問題や人口問題に関わることができます。
ですので、やる気のある人は国際協力に是非参加してみてください。
(終わり)
山本敏晴先生は、宇宙船地球号を設立後、プロとして国際協力を行いたい人のためのガイドブックを多数出版されました。「国際協力師になるために」(白水社)と「世界と恋するおしごと」(小学館)がお勧め。
詳細は、こちらへ。http://www.ets-org.jp/pub.html

また、国際協力を将来行い人の悩みを相談するため、ウェブ上での対談も掲載されています。
「未来の国際協力師たちへ」は、こちらへ。http://www.ets-org.jp/mirai/
山本先生は2005年3月に、国境なき医師団の理事を退任されました。
2003.12.1掲載 (C)LinkStaff
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