コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。
Episode 1571年越しの転職(上)2014年08月15日 コンサルタントH
50代前半のT先生と初めてコンタクトをとったのは去年の5月だった。
定期的にご登録いただいている医師に対して近況をお伺いしている時に、現在のご自身の状況についていろいろと考えられていることがあるとのことだった。
具体的には神奈川県でも有数の急性期病院で呼吸器内科の一人部長として、勤務をされているが、一人で呼吸器内科の外来・病棟管理等をこなしているために自身の研究日も出勤されたりと、心身ともに疲れ果てているとのことだった。
T先生のお考えをもっと知りたいと思い、面談を打診したところ、時間をとるのは難しいが1か月後にパシフィコ横浜で学会があるのでその時であれば1時間ほど時間を作れると仰って頂けたので、パシフィコ横浜に出向いてお会いすることになった。
実際にお会いして話をしてみるとT先生の背景やお考えが分かってきた。
今までが忙しかったので療養型の病院などでゆっくりしたい。子供が生まれたばかりなのでまだまだ給与を稼ぐ必要がある。今の勤務先は元々属していた医局の学長からの紹介なので不義理はできない。もし転職ができたとしても翌年の4月以降。等・・・
今まで、呼吸器内科で長年勤務されていたにもかかわらず、本当に専門性を捨ててでも、ゆったり勤務を選ぶのか、私としても若干疑問は残ったが、一旦T先生に御紹介できる求人を探すことにした。
希望としては療養型の病院で当直は免除。自宅から1時間圏内で週4日勤務1800万円以上とのことで、相場的には高めということもあり案件はすぐには見つからなかった。
案件を探し出して約2か月が経ったころ、一つの医療機関が候補として浮かび上がった。神奈川県にある約300床の療養型の病院で、T先生の話を先方担当者にしたところ、院長先生が興味を持たれて是非お会いしたいとのことでT先生に紹介した。
条件的にはT先生が望まれているようなゆったり勤務で年俸も希望が通りそうだったので、先生も一度面接に訪問されることになった。
T先生の業務が忙しくお会いできるのは土曜日の19時ごろではあったが、その時間しかないということで病院長も時間を作ってくれた。
いざ、面談が始まると病院長は70代を超えているにもかかわらず非常にパワフルで、病院の方向性に関しても熱い思いを語って頂けた。対してT先生は緊張していたのかやや大人しい印象で、少な目ではあるが要点を絞って質問をされていた。
その後、病院内を見学するときにあることに気付いた。人工呼吸器をつけている患者様が非常に多いということに。
質問をしたところ、現在人工呼吸器をつけている患者様は約80名ほど入院しており、今後も増やしていく予定だとのこと。それもあり、呼吸器内科のT先生には病院に来てほしいとのことだったのだ。
一通り病院見学が済み、丁重にお礼を述べてT先生と病院を後にした。
帰りのタクシー・電車の中でT先生に印象を聞いてみた。今までは人工呼吸器をあまりつけないようにと指導をされながら診療を行っていたが、その考え方を180度転換させないといけないということ。今まで急性期で呼吸器内科を診ていたが、その専門性を捨てなければならないということ。外来も患者様がほとんどこないということ。
それでも、年俸の部分や体力。いろんな要素を確認し、許容できる部分、出来ない部分を羅列し、クロージングをかけていく。
「割り切ってこの病院にお世話になるのもいいかもな・・・・」と先生がおっしゃられた。
ただ、先生の表情が晴れないことと、約1年後ということもあり、ここで話を進めていったとしても、結局はキャンセルになるのではないのではないかと思い、一旦T先生の気持ちを固める作業をストップした。
2日後の月曜日の夜にT先生に電話したところ、やはりまだ踏ん切りがつかないとのこと。どちらにしても今の病院を続けるか辞めるかは決めなければいけないので、11月の同門会で学長に相談してみるとのことで結論は先延ばしになった。
同門会の後、T先生に確認をすると、学長から案の定引き留めに合い、来年の4月でやめるのは難しく、夏までは働いてもらえないかという相談を受けたという。
義理を欠くわけにはいかないとのことで、転職の時期を先延ばしにして、再度検討することになった。
先日紹介した療養型の病院はあまり気が進まないとのことで、お断りをすることになった。
この時点で最初のアプローチから半年が過ぎていた。