コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。
Episode 155笑顔の束(上)2014年06月15日 コンサルタントO
私がV先生とお逢いさせて頂くきっかけとなったのが、会社に掛かってきたご婦人からの1本の電話でした。たまたま、私がその電話を取り内容をお聞きすると、電話を掛けてこられたご婦人本人ではなく、ご主人様が転職希望との事でした。
何故、医師であるご主人ではなく、奥様が電話してこられたのかと少し疑問に感じながらも、詳細をお伺いさせて頂く為に、V先生のご自宅にてご面談をさせて頂く運びとなりました。
当日、V先生ご夫妻と私が偶然にも同郷であったことから、懐かしい話題も交えながら和やかな雰囲気の中、ご希望や現在の不安などをお聞かせ頂きました。
V先生は60代後半で、昭和40年代半ばに大学を卒業され、医局人事で約24年間、幾つかの医療機関で外科医として活躍してこられました。しかしながら、急性期医療の最前線で毎日が手術の連続という激務から次第にその過労がたたり、すっかり体調を崩され、外科医としての第一線を退かれました。その後、現在に至るまでの約12年に渡り、生命保険会社の加入審査医のお仕事に従事されておりました。そしてこの度、定年を迎えられるとの事でした。
実際、V先生は経済的には働かないといけないご状況ではありませんした。医師であるお嬢様からも『もう家でゆっくりと老後を過ごして欲しい』とのご希望があったそうです。ご夫妻に何故、定年後も医師として仕事を続けるおつもりなのかを単刀直入にお聞きした時の事です。普段から口数の少ないV先生は「医師として自分を必要とするところで、少しでも役に立てる仕事をしたい。」と本心を吐露されました
奥様は「主人には笑って家を出掛け、笑って帰って来て欲しい。お給料が高ければ、その分、主人にプレッシャーになる。夫婦二人が普通に老後を過ごせる収入があれば問題ありません。」とのお答えでした。おそらく、いつもV先生を傍でずっと見てこられた奥様は、体調を崩した為に臨床から離れる事を余儀なくされ、医師としての使命を果たし切れていないジレンマを察しておられていたのでしょう。
しかし、生命保険会社の加入審査医として長い期間をご勤務されていた為に、臨床から離れて医局との繋がりもない現状では、どのような医師求人があるのか全く分からないご様子でした。そのようなご状況で医師であるお嬢様の勧めもあり、寡黙なV先生の代わりに奥様から当社へお電話を頂戴したとの次第でした。
私は丁度その時期に老健の施設長の求人について、ある社会福祉法人よりご相談を受けていた最中でした。その内容は、現在の施設長のスキル、性格に問題があり、ご自身が理事の一人との立場からも色々なハラスメントが起き、他のスタッフ全員が退職を検討している状況でした。何としてでも今の施設長を退任させて、新しい施設長を迎い入れたいというものでした。
早速、V先生にその求人内容をご説明させて頂きました。V先生は求人に記載されている、お仕事の内容を入念に確認され、その表情は真剣そのものでした。そして、その老健施設で面接に挑んだ結果、V先生のお人柄も大変好評で、是非ご入職願いたいとのお返事を頂きました。それから、1週間が経ち、医師雇用契約書関連などを揃えた頃に、先方事務長から入った電話は意外な内容でした。