コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。
Episode 137ある心臓血管外科医の決断(下)2013年01月01日 コンサルタントT
A先生からの返信メールは、ご案内した透析専門病院に関心があるので、この病院の見学と先方担当者との面談を希望するという内容でした。早速、翌日この専門病院に連絡をいれ、A先生のプロフィールを添付し、病院ご面談、ご見学の希望日時の候補をいくつかをメールでお知らせしました。同日、病院側からも是非ともA先生とお会いしたい旨の返信を頂きました。
A先生が当直明けでお時間が取れる、9月中旬の木曜日、透析専門病院での面接が行われました。病院側は、院長先生、医師採用ご担当の事務局長にご対応して頂きました。当日は、面接という堅苦しいものでは無く、病院ご見学、質疑応答というスタンスでとお話しておりましたので、終始和やかな雰囲気でお話が進みました。A先生は、転職を決意された現勤務先での状況や、医局人事で1年間程、国立病院機構 医療センターにご勤務された際に、透析管理のお仕事をお手伝いされていた経験をお話されました。
院長先生が、「最近、うちの病院に限らず、入院透析の患者さんは糖尿病の合併症の方が多いんですよ。中には、大血管障害の方もおられるので、A先生に来ていただけると心強いですね。うちは透析を1日2クール行っています。勤務体系はご希望にできるだけ添えるようにしますよ。A先生は心臓血管外科がご専門だから、透析シャントも問題ないでしょう?」とA先生に言われると、A先生は、「ブランクはありますが、透析シャントの手術経験もありますし、維持透析の長期化や糖尿病等の血管合併症の多いシャントが閉塞や狭窄すると、透析効率が落ち時間がかかったりしますので、PTAもやったことあります」と回答されました。
施設見学の後、A先生と別れ帰社すると病院の事務局長より、A先生に是非とも当院にご入職して頂きたいとの電話連絡が入りました。勤務条件は週35時間勤務、当直無しで年俸は1,800万円というものでした。早速、A先生にこの結果をメールでお知らせしました。翌日、A先生より入職する方向で話を進めて欲しいと返信がありました。私も、入職にあたっての詳細な諸条件を確定するために、病院の事務局長様と再度面談を行いました。それから、1週間後、A先生から私の携帯に連絡が入りましたが、その内容は私にとってまさに青天の霹靂でした。
A先生からお電話の内容は、「私が所属している大学医局の教授に現勤務先への退職の意向を報告したら、猛反対を受けてね、困っている。紹介してもらった透析病院への入職は難しいかもしれない。」というものでした。私も透析専門病院への手前もありましたので、A先生との再度ご面談をさせて頂くことになりました。当日、先生は申し訳なさそうに、「本当にすまないね。私が今、現勤務先を退職すると大変なことになりそうだ。」と話されました。
私は、「確かに、A先生ほどのご経験と能力をお持ちの先生がご退職されると、病院側もお困りだとは思います。しかし、先生と最初にご面談させて頂いた時にお話されました、お子様と一緒の時間を増やされたいご希望がご転職の動機ではなかったでしょうか。先生ご自身のQOL向上も重要であると思います。」と話しました。すると先生は、「確かにそうだね。もう一度、教授と話し合ってみるよ。」と思いつめたように言われ、席を立たれました。
それから1週間が過ぎて、今回の紹介は不成立かなと思っていたところ、A先生から私の携帯に連絡が入りました。A先生は、「教授と現勤務先の院長と再度、話し合って退職については承諾してもらったよ。本音の部分で話し合ったら理解してもらえた。私の後任も医局からの人事でほぼ決定した。当初の話どおり紹介してもらった病院に行くことにする。」と声をはずませて話されました。
心臓血管外科から透析管理のお仕事への転身ということで、私にとっても非常に貴重な経験となりました。急性期の最先端でご勤務されている外科系の先生方の過酷な勤務状況や、それにもめげず、患者の命を救うために日々お仕事に邁進されている先生方のご苦労を垣間見た今回の紹介案件でした。A先生の新しい職場でのご健勝とご活躍を祈念する次第です。