Episode 119正直に話してみよう（上）2011年06月15日　コンサルタントＴ

先の震災が起こる前のある日、Ｋ先生とは東海道線の某駅前のファミリ－レストランでお会いした。

Ｋ先生は、私と同じ３０代なのだが不思議な威圧感があった。威圧感と言っても態度が悪いとか、顔が怖いといった類の話ではない。実際の身長よりも大きく見える印象だ。何かスポーツをされているのか聞いてみると、サーフィンをやっているとのこと。ライフセーバーの様な体格はそのためだろう。

挨拶を済ませてから、転職を考えた理由を尋ねてみた。専門は消化器外科だが、内科への転科を考えているとのこと。今の病院へは内視鏡の症例が多いからと、知り合いのＤｒに紹介してもらい入職したそうだ。しかし、入職後直ぐに院長と知り合いのＤｒが退職してしまい、某大学の医局員ばかりが症例を積んでいると愚痴をこぼしておられた。オンコール等の急な呼び出しも、Ｋ先生ばかりが呼ばれる状況らしく、地域の基幹病院であるため緊急オペが入ることもしばしばで、日付が変わる前に帰れない日も多いとのことであった。

Ｋ先生は、「家内と子供を連れて引っ越してきましたが、こんなにも入職前とギャップがあるとは思いませんでした」と苦笑していた。幸いなことに、奥様は元医療従事者でこの過酷な勤務体系にも一定の理解を示しているとのこと。しかし一定の理解はあるものの、お子様のことでは悩んでいるようで、子供の教育を考え都市部に住みたいというのが奥様の本音とのことだった。Ｋ先生も奥様も関東出身なので、東京・千葉・埼玉を希望されていた。他社にも登録していると聞いたので、私は「他社に負けないよう、いい求人を提案しますね」と告げ、その日は別れた。

会社に戻ってＫ先生の希望条件を整理してみた。
●内視鏡の症例が積みたいので指導医がいる病院。
●当直やオンコールは構わないが自分にばかり回って来るのは困る。
●先輩の頼みで別に非常勤勤務をしているので、週4日勤務が希望。
●年俸に関しては極端に安くなければ構わない。

この4つを満たす医療機関を早速あたってみた。
正直なところ病院探しではあまり苦労はしなかった。消化器外科の医師で内科系の事も学んでいきたい、多くの勤務医が抱くごく普通の条件。今の過酷な勤務状況から抜け出したいという希望があるだけである。

何件かの医療機関に足を運び、先生の要望に合った所を探した。
内視鏡の技術修得のための症例を積むことが出来るＡ病院での面接を提案し、承諾を得た。後は実際に面接で院長と話をしてもらい、その日の内に院内の雰囲気も見て頂いたうえで、入職について判断して頂こうと考えていた。

面接当日、Ｋ先生には遠方から車でお越し頂いた。
Ｋ先生は苺をお土産で持ってきてくれた。患者さんからの頂き物だそうだ。患者さんから慕われているＫ先生が頭に浮かんだ。面接は問題無く終了し、詳細の詰めは残るがＫ先生から入職の返事が来ることを期待していた。

面接が終わった後も、Ｋ先生とは色々とやりとりをしていた。
内視鏡の技術は身につけたいが、外科医としてメスを握らなくなることについて悩んでいた。そんなＫ先生に対して差し出がましいかも知れないが、色々と自分なりの考えを伝えた。Ａ病院側との詰めに関しても順調に進んでいた。そんなある日、Ｋ先生から意外な電話が入った。