コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。
Episode 106家族のために(下)2010年06月01日 コンサルタントI
先生のご希望に沿える案件は住環境を除けば複数ある。しかし、住環境となると個人の主観によるところが多いため、誰が見ても"良い"と感じてもらえるような情報密度と情報量が必要になってくる。また、ご家族の意向も当然に反映されるため、予想以上に時間が掛かった。時間ばかりが経過することに焦りが出始めてきたころ、ある病院から電話が入った。
以前から弊社とお付き合いのあるW病院からで、「先日お話を頂いた先生の件です。常勤の先生が一人退職する為、ぜひお話を進めて頂けませんか。」という内容だった。早速、匿名でO先生のお話をさせて頂き、住環境や希望条件、先生のお考えなどを伝え、「ぜひ院内で検討して下さい」と電話を切った。 と同時に、地図、県庁のホームページ、不動産業者など、その地域の情報を集め一冊のファイルにまとめ始めていた。なぜか私には、その時W病院から面接依頼の返事が来ると分かっていたのである。
面接当日、待ち合わせ場所には疲弊した表情のO先生が立っていた。ご挨拶を済ませ、病院に行く前に駅で少し話しをしてから行くことにした。お会いした時の印象を一言でいうと、非常に真面目な先生。O先生に、まずW病院の概要を再説明し、まさに今いる駅前の風景、住環境として先生のイメージに合っているか尋ねた。すると、『私は都内の出身ですが、正直人ごみが嫌いです。急性期の病院ばかり回っていたこともありますが、今後は環境も含めのどかな地で医療を提供していきたいと考えています。』と、返ってきた。私は、都内の病院と比べ、どうしても人、物、お金の面で劣ってしまうW病院で仕事をしていただくことを申し訳なく思っていたが、取り越し苦労だったようだ。
W病院へ伺うと、事務長に応接室へ案内され、院長と副院長も加わり面接が始まった。院長と副院長は、O先生と同じ外科医。病院の現状や方針、今後の方向性の説明があった後、外科医としての経験談で話は盛り上がり、O 先生の表情は緊張から笑顔に変わっていた。
帰りに駅のホームで、『あそこは、のびのびと仕事ができそうですね。周辺の環境も私の理想通りでしたよ。ありがとうございました。』先生の表情は、自信に充ち溢れていた。私は御礼と入職までの流れを説明し、「そのほか要望やご質問があればメールでも構いませんのでご連絡下さい。」と先生を見送った。それからの2週間、1つ1つ確実に条件詰めを行った。勤務内容に対する要望は少なかったが、一番の不安要素は、奥様とお子様が安心して生活できるような住環境。不動産業者から病院付近のマンション、アパート物件をいくつも送って頂き、周辺環境の調査や利便性を考慮し、ようやく希望の物件が見つかった。引越しの手配とともに、契約書も完成。週5日勤務、年俸1810万円の条件で締結し、3月の終わりには円満に退職された。
入職前日、先生から連絡があった。『少し緊張しているが、最初は慣れるまで時間がかかるかもしれませんね。だけど、しっかりやっていきますよ。辞めてから少しの間、家族とも過ごせリフレッシュもできた。本当にありがとう。』