コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。
Episode 105大切な家族のために(上)2010年04月15日 コンサルタントT
8月中旬、N先生から弊社へ「診療所の所長の仕事を探しています」という内容の相談があった。早々、携帯に電話を掛け、面談を申し入れたところ、「こんな所まで来てくれるの?」と少し恐縮されたような感じで面談の了承を頂いた。その折に転職される理由を尋ねたが、「いろいろとあるので会ってから話します」ということで確認できなかった。
N先生は、40歳代後半で、救急医療の最前線で活躍されてこられた外科医である。約10年前にご家庭の事情で大学医局を離れ、地方自治体直轄の診療所の所長として勤務されている。精悍な風貌で正義感の強い頼もしい方で、地域住民からの信頼も非常に厚い。面談の待ち合わせ場所で、通りすがりの地域の方から、何度も声を掛けられていた。
2日後の面談当日、N先生は「妻の実家の近くへ引っ越そうと考えている。今まで子育てなど全て妻に任せてきたが、これからは少しゆっくりさせてあげたい。数年前に妻が大病を患った為、落ち着いた環境の良いところで静養が必要なんです」と転職理由を述べられた。また、現在お勤めの診療所は日祝が休みだが、患者が自宅にまで来るため休暇が殆どない状態である。そのため、数年前より診療所の運営に対して不満を持たれていた。
次に、希望条件を細かく確認したところ、勤務地は奥様のご実家近隣で診療所の所長職。年俸は現状維持の2,100万円、転職時期は2010年4月ということであった。
希望年俸は高いが、現在お勤めの診療所が24時間、365日オンコールという過酷な勤務状況のため、ゆとり勤務を望まれていない点が救いであった。
私は「正直申しあげまして、地域を考えますと2,100万円は少々厳しいと思われます。多少年俸が下がったとしても検討頂けますでしょうか」と尋ねると「勤務地と仕事の環境を優先する」と返答があった。「4~5日以内に医療機関の提案のためご連絡します」と伝え、面談を終えた。
翌日、早速求人を確認したところ、4年前ではあるがH診療所の所長職の求人依頼を受けていた。H診療所の理事長に電話を掛け、求人状況を確認したところ、「3つある診療所の内、2つの診療所の所長が高齢で数年前から後任を探していたが、まだ見込みがなく困っている。良い方がいれば、ぜひ紹介して欲しい」と要望があった。口頭でN先生の年齢、経歴など説明し、面接実施の了承を取り付けた。但し、年俸については、「初年度から希望額は厳しい」と説明があった。
面談の2日後、N先生に求人資料をメールにて送付し、電話で詳細を説明した。勤務地が、奥様の実家の隣町でありN先生も何度も近くを車で走ったことがあること。また、新所長として自分のやり方で仕事を進めることができる点に大変興味を示された。私から「まずは、一度現地に出向いて先方の話を聞いてみませんか」と提案すると「妻と相談するので数日時間が欲しい」と依頼があった。
一週間後、N先生に電話をすると「面接には行きたい。しかし今年まだ一日も休みが取れていない。いつ休めるか分からないが今調整しているので少し待ってくれますか。それから、いくつか質問があるので調べてもらえますか」と依頼があった。質問内容は、経営状況、今後の方針(レセプトのオンライン化、電子カルテ)、具体的な業務内容(一日の外来数、往診人数)、検査設備などで、即日回答した。
3日後、N先生より「急だが1週間後の土曜日午前中なら時間が作れる」と電話があった。早速、H診療所に事情を説明し面接を設定した。年俸が希望額より下がることがほぼ決っていたので再度N先生と面談し事情を説明し了解を得た。
面接当日の午前8時頃、私の携帯に「今朝4時に家を出たが、交通渋滞に巻き込まれた。4時間ぐらい遅れそうです」とN先生より連絡があった。大型連休の初日であることに加え、高速道路の料金が1,000円均一になるということで全国的に大渋滞していた。面接は午前10時開始で、理事長、理事、院長と幹部が揃うため時間変更ができない可能性があった。早速、専務理事に連絡を取り、理事長のスケジュールを調整して頂き、午後2時開始に何とか変更頂いた。午後1時に無事N先生が到着され、面接がスタートした。まずは、理事長より診療所の経営方針、今後の施策など、続いて現院長より具体的な業務内容について説明があった。N先生より、在宅医療の取り組み方、検査機材の種類、今後小児科に力を入れるかなど積極的に質問をされた。終始和やかな雰囲気で地元の話題で盛り上がっていた。理事長より、「奥様のご実家にお戻りになられる際は、是非私どもにお力をお貸しください」とお言葉を頂いた。面接後、診療所2ヶ所、グループホーム、本部を見学し終了した。条件は再度詳細を検討されることになり後日の提示となった。
駐車場までN先生をお送りした。別れ際に「実は、診療所の事務方の責任者が1週間程前から急病で休暇を取っており、復帰の目処が立っていない。このままでは、代わりの医者が見つかるまで辞められない状況で困っている。今回の話は基本的には受けたいと考えているが、入職を1年ほど先に延ばすことはできないか」と相談があった。「まずは条件提示を受けましょう」とその場はお別れした。