トップページコンサルタント手記Episode 101: 人の縁とは(下)

コンサルタント手記転職とは、人生を選び取るということ。
これは、医師の転職を導いたコンサルタントが経験した、
本当にあった物語。

Episode 101人の縁とは(下)2010年01月01日 コンサルタントN

さらなるヒントを求め、M先生に条件の詳細について確認していたとき、M先生がふと「通勤するときにそばを通っているT病院のような場所であれば・・・」と漏らされた。T病院は、A病院に比べると規模の小さな病院ゆえに、リストから除外してしまっていた。「T病院のような規模でもよろしいのでしょうか」とM先生に聞くと、条件さえ合えば可能との返事をいただいた。
そこで、T病院の事務長に連絡を取ったところ、「スキル次第だが、条件については相談に乗れるかもしれない」との回答だった。M先生にお薦めするなら、事前に病院設備も見たいし、事務長にM先生の要望も直接伝えたいという一心で、私はT病院に向かった。
T病院はローカルな中規模の病院で、若干、古めかしい外観だったが、事務長をはじめ、勤務しているスタッフが生き生きとしていた。細かい勤務体系や年俸などの希望は許容範囲内なので、あとは院長とM先生の考え方が合うかどうかが最大の問題のようだった。早速、面接を設定することになった。

面接は院長、看護師長、事務長、M先生、私の5人で行われた。院長は非常に気さくでかつ豪快な魅力のある方だった。話を聞くと、看護師長も事務長も院長を慕い、他の病院から転職してきたという。M先生も院長と意気投合し、楽しそうな会話が続いた。Rクリニックとの連携に話が及んだとき、Rクリニックの院長もこの病院のオペ室を借りに来ているという奇遇に驚いた。その話題から会話は一気にヒートアップしていった。Rクリニックとの連携を取ることのメリット、地域医療のあり方、T病院の未来像にまで話が及び、同窓会での旧友同士の会合のような雰囲気になった。
「あまりに楽しすぎて怖いくらいです。頭を冷やしながら、契約を前向きに考えさせてください」というM先生の一言があるまで、楽しそうな会話が延々と続いていた。
「そうだった、忘れてたよ。M先生、まだ契約してなかったんだよね」と院長が笑って続けた。「細かい条件は、事務長とリンクさんで詰めて。うちはウエルカムだから。」
面接から帰る車の中では、感想を聞くまでもなく、M先生は乗り気で、私としてはあまりにうまく行き過ぎたため、リップサービスだったらどうしようという疑いすら感じてしまった。細かい条件の詰めはこれからであり、「明日、事務長に連絡して、院長のお答えを再確認したうえで、条件がご希望に沿っているか確認し、ご報告します」と約束し、M先生と別れた。

翌日、事務長に確認の連絡をしたが、「是非来てほしい」という答えに変わりはなかったので、事務長とM先生の希望される勤務条件のすり合わせを始めた。勤務日数は、Rクリニックでの週1日の勤務があるため、希望通りの週4日で決定した。当直については「ほかの常勤医は全て行っているので、月に数日でもお願いできないか」と依頼されたが、勤務時間もM先生の条件である以上、譲れない点であった。
そこで、M先生と当直に変わる何かで貢献することはできないかと話し合い、ほかの医師が判断に困ったときに相談電話が入れば、対応するということで落ち着いた。
年俸については、M先生はあまりこだわってはいなかったが、現職の給与を参考に事務長と検討し、1700万円に決定された。当直なしという点を考慮すると、M先生は妥当だと認めてくれた。
それで、この条件で決定かと思ったとき、M先生から予想もしないような一言をいただいた。「今の病院と違って、T病院には退職金制度がないんだよね…。」M先生は特に年俸などの要望はされなかったが、このことが最終決定しかねている要件になっていたことは確かだった。そこで私が「ほかを見ても、退職金制度を導入している病院自体が少ないのは事実ですし、退職金を条件にすることはできないと思います。しかし、ほんの気持ち程度でも、年俸に上乗せしていただくというのはどうでしょう。例えば、年俸30万×20年で600万の退職金と同等と考えてはいかがでしょうか」と言うと、「そうだね。気持ちの問題だよね」と納得してくださった。
翌日、事務長に相談し、気持ち程度ではあるが、年俸に30万ほど上乗せいただくことで決着し、M先生に安心していただくことができた。後はスムーズに進み、「週4日勤務で、年俸1730万、当直なし」とM先生の希望通りの条件になった。逆にT病院からの要望についても、M先生が理解を示し、お互いが納得いく条件で契約することができた。

このほど、M先生の希望もあり、院長に直接、正式な入職確定の報告をしてきた。M先生とT病院、お互いが相思相愛であり、人の縁を強く感じた案件だった。個人的にもこれからのT病院が非常に楽しみであり、興味がある。
帰りの車中、M先生に「今回の転職は、条件も厳しく、難航するかと思ったけど、リンクさんのおかげで、拍子抜けするくらいスムーズに決めることができたよ。ありがとう」と言っていただいた。私が「先生のアシストをしただけです。今後の先生とT病院の展開が楽しみです」と言うと、M先生がつぶやいた。「赤い糸ってあるんだね。」

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