

国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長
国際医療福祉大学大学院教授・(株)医療福祉経営審査機構CEO
(日本ジェネリック医薬品学会代表理事)

2007/12/20
公開分
ブルックリンの想い出~その6~
静注麻薬患者(IVDA)
2007年10月上旬、英国版P4Pの視察にロンドンを訪れた。P4PというのはPay for Performance(医療の質に基づく支払い方式)の略語で、4はforの語呂合わせだ。2000年以来、欧米先進各国でこのP4Pが支払い方式のトレンドになっている。一般にP4Pは臨床指標や患者満足、IT化の指標を測って、成績のよいところに診療報酬上のボーナスを与えるという方式だ。いまでは米国、英国、オーストラリア、カナダなどの英語圏で普及が著しい。この英国版P4Pを見学にロンドンを訪問した。
ひさしぶりに訪れたロンドンは景気が回復して、海外からの資金が流れ込んで、ちょっとしたバブル状態だった。これもブレア首相の10年間にわたる制度改革の成果なのだろうか?それにブレア首相の医療制度改革により、イギリス医療はよみがえりつつあるようだ。とくに低医療費政策を変更し、医療への投資を1.5倍にするという大胆な政策が実施され、これにより医療の質を向上させ、そして同時にGPの収入増をもたらすという英国版P4Pの実現が可能となった。
さて、今回の視察では、開業医(GP)向けのP4Pプログラムである「Quality and Outcomes Framework」(QOF)を見てきた。このQOF(クオーフ)は2004年にスタートした。
QOFでは、次にのべるように10の疾病グループ、146の臨床指標毎に標準的な達成目標数値を設定し、目標を達成すれば成果報酬が支払われるという方式である。この結果、実にGPの収入が年間平均4万ドル、それまでの約30%もの増収になったといわれている。診療報酬のアップ率30%など日本では考えられないほどの改定率である。
さて、10の疾患グループは(1)喘息、(2)がん、(3)慢性閉塞性肺疾患(COPD)、(4)冠動脈疾患、(5)糖尿病、(6)てんかん、(7)高血圧性疾患、(8)甲状腺機能低下症、(9)重篤な長期療養を必要とする精神疾患、(10)脳卒中および一過性虚血発作よりなる。
これらの領域ごとに臨床指標が設定されている。たとえば、冠動脈疾患の臨床指標は以下のように設定され、その患者割合ごとに点数がスライドするようになっている。たとえば「コレステロール値が193mg/dl以下の患者割合」では、患者割合が25~60%の範囲で、最低0ポイントから最高16ポイントまで加点される。「アスピリンなどの抗凝固剤を投与した患者割合」では、患者割合が25~90%の範囲で、最低0ポイントから最高7ポイントまで加点される。「β遮断剤を投与している患者割合」では、患者割合が25~50%の範囲で、最低0ポイントから最高7ポイントまで加点される。「インフルエンザ予防接種率」では接種率が25~85%の範囲で最低0ポイントから最高7ポイントまで加点される。つまり検査値や服薬コンプライアンスを計測してその成績優秀診療所にポイントをつけるという方法だ。そしてこのポイントの合計に対して、ポイント単価(175ポンド)を掛け合わせた診療報酬が支払われるというわけである。
こうしたP4Pの仕組みの導入によって、実際に臨床指標自体の改善も認められた。たとえば2004年と2005年の比較では、開業医グループで計測した臨床指標の改善度をみると、コステロール低下した患者割合が71%から79%と上昇し、アスピリンや抗凝固剤を使用する患者割合も90%から94%と上昇し、β遮断剤使用率も63%から68%と上昇し、インフルエンザ予防接種率も87%から90%と上昇したという。
さて、この実態をサウスロンドンのあるグループクリニックを、ロンドンでは珍しい大雨の中を訪問してきた。このグループクリニックは住宅街にあるこじんまりしたクリニックで6人のGPが働いている。ちょうど訪問したときには子供たちの予防接種で外来は混み合っていた。
われわれが訪問の意図をつげると早速、クリニックの女医のマリーさんが説明してくれた。「まずNHSのインフォーメーションシステムを見せましょう」と言って、電子カルテの前に案内してもらった。「この患者は冠動脈疾患の患者ですが、テンプレートを開けて、この患者が12ヶ月以内に血圧の記録があるかどうかチェックします。また禁煙指導をおこなったかどうかもチェックするわけです。していなかったら電話で呼び出して次の診察の予約をとるわけです。これがポイントになって収入になるわけですから、患者のフォローの仕方が、QOF(クオーフ)導入の2004年前とはだいぶ変わりましたね。」という。
「収入はどうですか?」と聞くと、「このクリニックでは15%ぐらいの増収ですね。増収分はクリニックの人の雇用に当てました。患者を電話で呼び出したりするのにも人手もかかりますからね。QOFのおかげで患者の日常のケアに目が行き届くようになったし、診療の質はあがりましたね。」
「患者データの電子カルテへの入力は手間ではありませんか?」「そうでもないです。テンプレートのチェックボックスを選んでいけば良いので、そんなに手間でもないです。」
「デメリットはありましたか?」と聞くと「QOFではNHSの監査が増えたのが、ちょっとわずらわしいですね」とのことだった。
さて、英国のGPに収入増と、そして臨床指標の改善をもたらした英国版P4PのQOFの今後に注目したい。
